臨床心理士と可愛い絵本③
『臨床心理士と可愛い絵本』と題して、
シリーズでお送りします。
幼い頃に好きだった絵本を
大人になった今あらためて手にした時、
そこには深くて広くて大きなメッセージがあるように感じました。
“大人になったから” だけでなく
“臨床心理士として” の視点も増えた私が、
一冊の可愛い絵本に想いを寄せて、語ります。
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第三回目にご紹介するのは
【ノンタン ぶらんこのせて】
(キヨノサチコ:作絵 偕成社)
〈あらすじ〉
ネコのノンタンは、ぶらんこにのって楽しんでいます。
そこに、お友達がやってきて「ノンタン、のせて」と声をかけます。
でも、ノンタンは「だめだめ」と順番を交代しません。
お友達がちょっと怒っても、10数えたら変わるように提案しても、
ノンタンは「だめだめ」ばかり。ぶらんこを独り占め。
そんないじわるノンタンには、わけがありました。
まだ幼いノンタンは、「1・2・3」までしか数えられないのです・・・
困ったノンタンは、10まで数えられないことを打ち明けます。
すると、お友達みんなが楽しい数え歌を歌ってくれました。
ノンタンもニコニコ、お友達もニコニコ。
皆で順番を交代しながら、楽しく遊ぶことができました。
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この可愛い絵本を読んで、
臨床心理士Tは、こんなことを考えました。
(1)表に出ている言動と内に秘めた思いは、違う場合がある。
ノンタンは、いつもは仲の良い友達からの
「ぶらんこの順番を代わって欲しい」という依頼に、
「だめだめ」とそっけない返答をしてしまいます。
きっと初めはノンタンも「もっとぶらんこをしていたい」という
子どもらしい自分中心の思いがあったことでしょう。
でも、次第に友達が次々と代るよう求めてくると、
ノンタンはますます意地を張ってしまいます。
プイッと顔を背けて、「だめだめ」と言いながらも、
「今さら、いいよ〜なんて言えない・・・」
「今さらどうやって交代したらいいかよく分からない・・・」
と少しずつ困っていたのかもしれません。
さらに、10数えるように求められると
「数えられないのに・・・!どうしよう・・・!」と
本当はもう泣きそうなくらい、途方に暮れていたのでは。
・・・こんな経験、大人にもあるのではないでしょうか。
本当は悲しい、悔しい、困ってる、助けて欲しい・・・
でも、今さら言えない。
どうやって言えばいいか分からない。
いい歳してSOSなんて出せない。
カッコ悪いと思われそうで怖い。
本音は隠し通さないといけない。
気づいたら、
思っているのとは反対の言動をしていたり、
どんどん強がるような振る舞いをし続けてしまったり。
そして、そんな自分がすごく嫌になる・・・
恥ずかしくて情けなくて、自分に自分で腹が立つ・・・
でも、言えない・・・
大人でもこんな経験があるものです。
心理士である私自身も、もれなく経験しています。
ノンタンのプイッとした態度を安易に責められない、
「ノンタン、本当はつらいんじゃない?」と声をかけたくなるような、
ちょっと胸の痛む場面です。
こうして少し客観的に見てみると、
何か意地悪に思える態度をしている人
いつもあたりの強い言動をしてくる人
暴言暴力で周囲を思い通りに動かそうとする人・・・
本当は「助けて」と言いたいのに
どうしてもその台詞を発することができずにいるのかもしれません。
だからそんな人がいても許してあげましょう、という話ではありません。
自ら助けてあげようとするには、限界がある場合がほとんどです。
こんな時こそ、私たち心理士を頼って欲しいと思います。
「あなた、本当は助けてって言いたいんでしょ?」
なんて、いきなり直面化することは、まずありません。
「助けて」って言っていい相手だと思ってもらうこと、
「助けて」って言ってみようと思えるくらい安心安全が保証されていること、
私たち心理士が第一に大切にしていることです。
(2)言ってみたら、意外とすんなり解決するかも。
ノンタンは、実は10まで数えられないことを正直に打ち明けました。
とても恥ずかしそうに、情けなさそうに。
そして、友達の反応は・・・?
誰も、ノンタンを馬鹿にしたり責めたりしませんでした。
「じゃあ皆で数えよう!」と一緒に数えてくれました。
楽しい数え歌で、10の後にはおまけもついています。
おかげでノンタンは、いつものように友達と遊び続けることができました。
つまりノンタンは、
「困ってます」「助けて欲しいです」
ということを素直に伝えたからこそ、
意外とすんなり解決することができたのです。
おまけ付きの楽しい数え歌でニコニコ笑顔も取り戻し、
きっとノンタンが思っていた以上の解決策だったことでしょう。
大人も、同じです。
ノンタンにとって10まで数えられなくて恥ずかしい、と同じように、
大人も「そんなことも分からないの?」と思われそうで隠し通したい!
と思う場面、実は結構ありませんか?(私は多々ありますねえ。。)
大人なら、その場では適当に誤魔化して、
後で必死で調べたり勉強したり、後で補えることもあるかもしれません。
必ずしも毎回すぐに「助けて!」と言うばかりが正解ではないとも思います。
でも、強がらなくてもいいのではないでしょうか。
「分からないので、次回までに調べてきます」
「間違いであればご指摘いただきたいのですが、〜でしょうか」
「お恥ずかしい限りですが、不勉強なもので・・・」と尋ねるなど、
大人になったからこその語い力で
強がる以外の選択肢が見出せるのではないでしょうか。
言ってみたら意外と良かった!という経験を重ねると、
人から助けてもらいやすくなり、今より楽になると思います。
人に助けてもらう、人に甘える、これってすごく大事なことです。
ノンタンが再び笑顔を取り戻し
お友達とまた楽しく遊べたように、
あなたも人を頼ってみると、
意外とニコニコになれるのかもしれません♪
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『臨床心理士と可愛い絵本』いかがでしたか?
第三回目 お付き合いいただき ありがとうございます。
同じ絵本であっても、感じ方は多様です。
同じ人が同じ絵本を読んでも、
その時の体調や気分によって
感じ方や気になるところが変わることもあります。
あなたが【ノンタン ぶらんこのせて】を読んだ時
どう感じ、どんなことを考え、
どんなメッセージを受けとったか、
ふと、考えていただけたら嬉しく思います♪
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